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「私は魚だ」 生い立ち

  • Shinichi Takeda
  • 1 de out. de 2016
  • 2 min de leitura

私は魚である。名前はまだない。

気が付いたときには、網で池から捕獲され、

四面を透明な板ガラスに囲まれたところに入れられていた。

あれから、半年がたった。部屋の片隅に置かれ、

まるで、生命維持装置のようなポンプが四六時中作動して騒音たるもの甚だしい。

しかし、慣れてみれば、そうでもなくなる。いつしか、気にもしなくなってしまった。

ほかの仲間は、池の中のままだ。

私は、この四角い世界にうつり、そっと外を板ガラス越しに眺めながら、

ひっそりと暮らしている。

わたしは、魚だ。吠えることもない。

「そっと」という形容がふさわしいほど、存在感がない。

それよりも存在を消してしまう。いや、存在を忘れかねない。

そんな心配の方が大きいのである。

リスクは大きいが自由気ままに生きている私なのである。

あの漱石の猫のように「ニャー」とも鳴かないし、

餅を食べて、主人を困らすこともない。

外を散歩すれば、命取りになる。

こうして、私は、部屋の片隅から人間というものを観察する日々が始まったのである。

この透明な板ガラスに囲まれたところは、実にいい。

とくに外敵から守られているのはことのほかうれしい限りである。

食べ物も自然に上から降ってくる。気が向いたときに食べればいい。

池のように水が雨で濁ることもない。

水が濁れば、泳ぐことも、食べることも、遊ぶことさえ困難になる。

そんな池の生活はいやだった。だから、いまの生活にことのほか満足しているのである。

しかもである。外ではないから、水温も一定に保たれている。

幸せな条件ばかりがそろっており、幸せいっぱいなのである。

こんなに恵まれた環境に生きる魚も珍しい。

わたしは、あの漱石の猫のように捨てられたのではない。

初めから拾われたのである。

だから、幸せ者なのだ。私はそう思う。

たくさんのタマゴの中から生き残った優秀な魚なのである。

 
 
 

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