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Shinichi Takeda

Shinichi Takeda

木村 欣三郎 物語

第007話

『しょう油屋『いでん』の秘伝 味噌づくり』

 

 ここにしょう油屋『いでん』の秘伝のみそづくりを公開する。読者のみなさんのなかにも味噌を作っている人がいるかも知れない。そんな方にはご参考までに読んでいただければ幸いである。どんなに公開しても、『いでん』秘伝の味噌ができるという保障は全くない。それくらい、味噌づくりは奥が深いのである。木村家でも何人かがいまでも味噌を作っている。筆者の家でも作っているが、それぞれの家でそれぞれの味の味噌ができるのは、とても興味深いことである。筆者が小さいとき、友達の家でよばれたお味噌汁の味は、自分の家のそれとは違っていて、おみそ汁を飲むのが楽しみだった。 それでは、まず、材料から説明する。

 

・米 15キロ

・大豆 20キロ

・塩 10キロ

・米麹(味噌麹)の種:各家庭で保管(冷蔵)

・大きな樽、桶、鍋

・大豆をつぶす機械

 

・作り方(みそ麹の作り方:『麹に花を咲かせる』という)

 

お米は、よく洗い一晩つけておく。1時間くらい、芯がなくなるまで蒸かす。蒸かした米は、摂氏30度になるまで冷ます。あまり熱いとみそ麹が死んでしまうので、注意が必要である。みそ麹の種と蒸かした米を混ぜ合わせる。発酵し過ぎてしまったら、薄くひろげ、熱をさます。天候にもよるが、2~3日間で発酵が安定するはずである。 これで、みそ麹が出来上がりである。ここまでの工程でもう3日間が経った。料理には、根気と時間が必要であることは、このことからもわかるだろう。 では、次に大豆の準備に取り掛かろう。大豆は、よく水洗いをして一晩水につける。その後、柔らかくなるまで炊く。大豆を冷まして、できた味噌麹と混ぜ、引き、ペースト状にする。ペースト状になったみそ麹と大豆に塩を混ぜ、桶などの容器に入れ、半年間寝かす。 うまくいけば、半年後、おいしい味噌ができあがる。ただ、大豆を炊くときは、圧力なべを使わないほうがいい。もし、圧力なべを利用したい場合、落としぶたをするといい。それは、炊いている間に大豆の皮がはがれ、圧力なべが大爆発を起こす恐れがあるからである。もう一つの注意だが、大豆の炊き汁は、寝かすまで、捨てずにとっておいた方がいい。それというのも、ペースト状になった大豆とみそ麹があまりにも、パサパサになる場合がある。そんなとき、粘り気をつけるために炊き汁を混ぜるのである。寝かせてからは、1週間に一回の割合で混ぜる。混ぜることによって、発酵を均一にさせるのである。 これが『いでん』秘伝の味噌の作り方である。しょう油屋『いでん』は、つぶれて現存しないが、駅弁などのお弁当の中に入っていたあの小さなしょう油が、じつは、しょう油屋『いでん』の商品であった。木村欣三郎がもし、日本にいたら、ひょっとしたら、現代でも続いていたかも知れないと、いとこの木村傳兵衛は言っていたという。木村欣三郎は、みそを作りはしなかった。ただ、彼の妻や娘にみその作り方を教えただけだった。それが、その孫、千代子にまで続いている。はたして、ひ孫まで続くだろうか。筆者の息子も娘もみそ汁は好きだ。ただ、家族で年に何回か行うみそつくりは、いまだに続いているが、今後のことは全く知る由もない。 いままで、味噌を作ると書いてきたが、本来は、味噌はつくものである。本当は、『味噌をつく』と、書きたかったのだが、どちらがよいかと迷い、最後に書いた方がよいだろうと考え、ここに書くことにした。 みそをつくことの大切さは、日本の心を忘れないようにとしようとしている、筆者の考えからかもしれない。しかし、ブラジルに渡り、この大地に根づき始め、食生活を簡単には変えられなかったからかもしれない。市販の高い味噌を購入したくない。そんな思いもあった。でも、何回か、味噌を作っていく間に『味噌をつく』ことに愛着を覚えるようになった。半年後、忘れたころにおいしいみそ汁を飲むとまた、その味は格別なのである。みそを作る時期があり、正月、五月、九月は作らない。『正(しょう)五九(ごく)』といわれ、いまでも我が家ではこの月にみそを作ることはない。

 

                                                            (つづく)

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