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Shinichi Takeda

Shinichi Takeda

木村 欣三郎 物語

第004話

『新天地』

 

 欣三郎と一緒にモンテビデオ丸に乗船したのは、兄嫁の瀧、弟の正のはずだった。ところが、モンテビデオ丸に乗船したのは、欣三郎、ただ一人だけだった。彼の荷物には、バンジョーが一つあった。彼は、バンジョーを弾くのである。ブラジルに着いて、マリリアの地で仕事を始めた。慣れない野良仕事の後、夕日を浴びながら、バンジョーを弾いていたのが、欣三郎。背中を赤く染めながら、弾くバンジョー。欣三郎は、何を思い出しながら、それとも、これからのことを考えながら音を奏でていたのだろうか。

そのバンジョーはいまだにある。大切に千代子の実家に保管されている。1月16日に横浜港を出港した欣三郎を乗せたモンテビデオ丸は、3月3日にサントス港に着いた。

 

 なぜ、兄嫁の瀧や正が欣三郎と一緒に乗船できなかったのかの理由については、調べてみたものの定かではなかった。とにかく2カ月遅れで、ブラジルに到着している。彼らが乗船したのは、さんとす丸。横浜港を5月14日に出港し、6月29日にサントス港に到着している。1カ月半の長旅。その旅は、思い出深いものであった。時計を毎日30分程度、ずらしていた。時化る時もあった。船酔いでご飯を食べられない時もあった。その反面、赤道を通るときには、赤道祭、相撲大会、かくし芸大会、そして、船内小学校や幼稚園が開かれていた。教育熱心な日本人である。乗船していた人々は、さまざまな県からの人だった。しかも、職業も様々だった。学校の先生、商社マン、警官など。このころ、ブラジルに渡るにもお金が必要だったことを先にも書いた。船内で命を落とす人もいた。そんな時のために、祭壇や棺桶も積んでいた。(つづく)

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