Shinichi Takeda
木村 欣三郎 物語
第009話
『豆腐』
最後は、豆腐である。筆者の大好物である。豆腐があれば、何も要らない。肉豆腐は、わたしにとって、思い出の料理である。大すきだ。木村欣三郎は、豆腐の型を木で作ったほどだ。それも、かなり大きな型だ。それは、いまだに、筆者の妻の実家に現存する。しかし、だれも使っていない。我が家でも豆腐をつくるは、まれになってしまった。仕事が忙しいのもさることながら、豆腐は、力仕事しなければならず、しかも、『おから』という副産物が大量にできてしまう。それが、豆腐づくりの難点なのである。筆者が小さかったとき、いつも豆腐屋の前を通って、学校に行った。その豆腐屋の前には、大きな『おから』の山ができていたのを覚えている。もったいなぁといつも思って、通りがかっていたが、豆腐を作ってみたら、その訳が分かった。我が家では、大量にできた『おから』は、人間に利用したあと、牛にあげることにしている。我が家には、2頭の愛牛がいる。とても、かわいい。しかも、『おから』は、大好物だから、一石二鳥である。では、そろそろ、豆腐の作り方を説明することにする。
材料
・大豆 適量 我が家では、500グラムくらい
・にがり 我が家では、Sal amargo(下剤)
・布袋・ミキサー・ガーゼなどの薄い布
・豆腐の型(ざるやチーズの型も代用できる)
我が家では、豆腐づくりをかなり失敗した。木村欣三郎は、豆腐の型をつくるくらいだから、上手だったに違いない。見よう見まねでする筆者とその妻。たくさんの失敗を重ね、現在は、たまに作るくらいである。本当は、頻繁に作って欲しいというより、頻繁につくろうと思う筆者である。 さて、大豆は良く洗い、一晩、つけておく。ここまでは、いままでと同じである。その大豆をミキサーにかけ、大豆のジュースをつくる。ここで、用意しておいた布袋にその大豆ジュースをいれ、しぼる。これがかなりの力仕事である。握力に自信のない人は、ここで諦めるしかない。または、他に方法があれば、教えて欲しい。この工程でカスがあの有名な『おから』。大豆ジュースが『豆乳』。筆者の妻は、このとき、コップ一杯、豆乳をとり、あとでこっそり飲むのが習慣である。さて、豆腐に必要なものは、この『豆乳』。この『豆乳』を火にかけ、ぐらぐらしてきたら、火を止める。そして、にがりをまぜるとすーっと、透明な液体と分かれるので、固形の部分が豆腐になるところである。そして、用意しておいた豆腐の型に、この液体を少しずつ入れ、白く固まった部分を集め、少し重石をして、固まるのを待つ。固まったら、水を入れた器に移し、冷蔵庫などに入れ保存する。豆腐は、良く水に入れて保存するが、これは、にがりをとるための大切な工程であることを忘れてはならない。筆者は、この工程をだいぶ長い間、していない。自家製の豆腐を食べたときに便通がよくなっていたのは、いうまでもない。にがりを入れ、かき混ぜるときは、十文字にするとよい。ぐるぐるかき混ぜるといつまでたっても、固まらないのであしからず。この『にがり』については、いろいろなもので代用ができる。筆者は、ブラジルのにがりが下剤であり、薬局までよく買いに言っていた。薬局の人たちは、筆者の買う量に目を丸くしていた。なぜ、そんなに下剤をたびたび買うのだろうと。そこで、筆者は、へたくそなポルトガル語でいつも説明をしていた。そこで、下剤のほかに、代用できるものはないかと探したところ、レモンや酢で代用が可能であることが分かった。そして、行動的な筆者は酢で試してみた。ところが…みなさん、酢は使わないほうがいい。台所中、いや、家じゅうが酸っぱいにおいで、大変なことになった。しかも、気分まで悪くなり、挙句の果てに、豆腐が固まらず、やっとで固まった時には、酸っぱい豆腐が出来上がっていた。その豆腐を食べたら、体がぐにゃぐにゃになるのではないかと思うほど、酸っぱかった。経験は貴重だが、こういう経験はできることなら最初で最後にしたいものである。
(つづく)